看護師は「命を預かっている」「健康リスクが高い」など、一般的な職業とは異なる苦労が少なくない職業です。
そのため「給料が低い」「割に合わない」と感じていたり、同僚から話を聞いたりしている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、看護師がもらっている給料の現実や低いといわれる理由、給料を上げる方法などについて解説します。
目次
看護師の給料は他職種より比較的高い
看護師の給料は数字だけで見ると、他職種と比較しても高いといえます。
看護師の給料について、3つの視点から具体的な数字を交えて解説します。
- 医療系職種の中では高い給料をもらえる
- 全職種における平均年収以上の給料をもらえる
- 時給換算でも平均以上
医療系職種の中では高い給料をもらえる
看護師の給料は、医師や薬剤師など高度な技術を要する職種を別にすると、医療系職種の中では高い金額です。
職種 | 月の平均給料額 |
看護師 | 351,600円 |
医師 | 1,096,100円 |
歯科医師 | 622,900円 |
薬剤師 | 414,600円 |
保健師 | 333,800円 |
准看護師 | 296,200円 |
臨床検査技師 | 347,300円 |
理学療法士 | 300,700円 |
歯科衛生士 | 282,700円 |
国が定める19の社会福祉専門職(その他を除く)の内、看護師の給与額は7位であることからも比較的高い給料が貰えているといえるでしょう。
全職種における平均年収以上の給料をもらえる
厚生労働省が行った「令和4年度賃金構造基本統計調査」によると、看護師の年収は、全職種の平均より約11万円高くなっています。
看護師の平均年収 | 約508.1万円 |
全職種の平均年収 | 約496.6万円 |
次に、男女別で平均年収を比較した結果は以下の通りです。
看護師の平均年収(男) | 約522.7万円 |
全職種の平均年収(男) | 約554.9万円 |
看護師の平均年収(女) | 約506.4万円 |
全職種の平均年収(女) | 約394.4万円 |
男性の場合は、全職種平均よりも約30万円低い年収である一方で、女性の場合は全職平均よりも100万円以上高い金額となっています。
時給換算でも平均以上
看護師と全職種の正社員における平均年収を時給換算した金額は以下の通りです。
職種 | 1時間あたりの給料(年収÷総労働時間) |
看護師 | 約2,582円 |
全職種 | 約2,338円 |
時給で見ると、看護師の方が全職種の平均よりも約244円高くなっています。
看護師と他職種では1時間でこなす業務量や責任にも違いがあるため、一概にはいえませんが、金額だけで見ると割の良い職業といえるでしょう。
看護師の給料が低いといわれる7つの理由
平均以上の給料があるのに看護師の給料が低いといわれるのは、以下の理由によるものです。
- 拘束時間が長い
- 業務内容に給料が見合っていない
- 責任に対して給料が見合っていない
- 給料が出ない勉強会がある
- きつい仕事なのに手当が少ない
- 残業代をもらいにくい
- 昇給率が低い
拘束時間が長い
日本看護協会が実施した「2022年病院看護・助産実態調査報告書」によると、約66%の病院が16時間以上の拘束時間がある勤務形態を採用しています。
件数 | 割合 | |
三交代制(変則含む) | 918 | 31.0% |
二交代制(夜勤1回あたり16時間以上) | 1,953 | 65.9% |
二交代制(夜勤1回あたり16時間未満) | 803 | 27.1% |
引用:日本看護協会
また、欠員や急患対応による急な残業や休日出勤もありプライベートの時間を確保しにくいことから、給料が低いと感じる方も少なくありません。
業務内容に給料が見合っていない
看護師は、夜勤などの長時間勤務があるだけでなく、業務もハードな内容が多くあります。
- 食事・排泄・入浴などの解除
- 採血や点滴などの診察補助
- 一定時間ごとの体位変換や移送業務
- 看護計画・カルテ作成などの事務作業
上記に加えて、ナースコールによって院内を駆け回ることも珍しくありません。
身体的・精神的に非常に負担のかかる業務内容から「割に合わない」と感じる看護師も多くいることでしょう。
責任に対して給料が見合っていない
看護師という仕事は、責任の重さに対して給料が見合っていない、と感じる方も多くいます。
看護師は、命を預かる仕事ということもあり、多くの患者を担当しながらも1つのミスもせず業務を進めなければならないため、責任の重さは相当なものといえるでしょう。
身体的・精神的にかなり負担のかかる仕事でもあり、責任の重さや負担の大きさに対して給料が見合っていないと感じる方がいても不思議ではありません。
給料が出ない活動や勉強会がある
看護師には、最新の医療や看護に対応するため、以下のような勉強会や活動が頻繁に実施されています。
- 看護研究
- 院内研修
- 委員会活動
- 学習会 など
上記の活動や勉強会は、業務時間外に実施されることも多く、実質的にはタダ働きとなるため、割に合わないと感じる人もいることでしょう。
きつい仕事なのに手当が少ない
看護師は、患者の身体に直接触れて処置をする機会も多く、感染する危険が高い仕事ですが、危険手当のようなものがない病院がほとんどです。
実際、世界的に蔓延した新型コロナウイルス感染症の時でさえ、対応にあたった看護師の内、45%以上の方が危険手当をもらえていなかったとのデータもあります。
引用:日本看護協会
以上のことから、仕事に見合った手当がもらえていない、と感じている方も多くいることでしょう。
残業代をもらいにくい
2021年に行われた調査によると、実際の平均残業時間は17.3時間であるのに対し、申請された平均残業時間は8.7時間しかないとの結果が出ています。
上記のような差が発生する背景には以下があります。
- そもそも残業代が出ない
- 看護師自身が遠慮してしまう
- 申請方法がめんどくさい
- 残業申請をしたら怒られる
看護師は業務量が多く「準備のため1時間前に出勤」「事務作業のために残業」など、残業するケースが少なくありません。
働いた分の給料を正しく貰えていない方からすれば、給料が低いと感じるのも当然といえるでしょう。
参考:日本看護協会
昇給率が低い
看護師は、給料の昇給率が悪い点も、給料が低いといわれる理由の一つでしょう。
以下は、看護師と他職種の各年代における毎月の平均給与額です。
看護師 | 全職種 | 差額 | |
20~24歳 | 295,100円 | 240,800円 | 54,300円 |
25~29歳 | 333,600円 | 281,700円 | 51,900円 |
30~34歳 | 333,800円 | 314,100円 | 19,700円 |
35~39歳 | 346,000円 | 346,700円 | -700円 |
40~44歳 | 361,000円 | 366,100円 | -5,100円 |
45~49歳 | 384,800円 | 379,500円 | 5,300円 |
50~54歳 | 383,800円 | 393,200円 | -9,400円 |
55~59歳 | 391,200円 | 395,600円 | -4,400円 |
60~64歳 | 344,000円 | 313,000円 | 31,000円 |
65~69歳 | 291,200円 | 271,000円 | 20,200円 |
20代の頃は全職種よりも5万円以上の差がありますが、30代以降は差は大きく縮まります。
特に、35~59歳の平均給与は全職種平均よりも低いことがほとんどです。
看護師の給料が上がりにくい理由
看護師の給料が上がりにくい理由は、病院の運営費を人件費に割り当てにくい事情があるためです。
一般病院では、患者から得た報酬を主に以下のように利用しています。
参考:「みんなに話したくなる! はじめて学ぶ 病院経営のしくみ」を基に作成
病院の運営費は設備や医薬品の購入にも使用されており、一般的な病院で使用できる人件費は60%程度といわれています。
人件費についても病院の収入へと直結する医者へ優先して割り振られるため、看護師の給料は上がりにくいのです。
看護師の給料が上がらない理由については、下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事:なぜ?看護師の給料が上がらない理由
看護師の給料を上げる5つの方法
看護師の給料を上げる方法は、以下のとおりです。
- 資格取得を契機に昇進を目指す
- 管理職を目指す
- 夜勤に多く入る
- 副業をする
- より給料の高い病院へ転職する
資格取得を契機に昇進を目指す
専門看護師や認定看護師などの資格を取得することで、昇進しやすくなるだけでなく、病院によっては資格手当がつきます。
ただし、以下のような負担が増える点には注意が必要です。
- 資格取得するまでの学習時間
- 専門分野の指導的役割を任される可能性が上がる
- 特定のチームが編成される際にメンバーやリーダーに選ばれやすくなる
- 研修会を行う際に資料作りを任される可能性がある
資格取得まではもちろん、取得後も指導者やリーダー的な役割を任されることとなり、現在以上に負担が増える可能性が高いでしょう。
そのため、患者と多くかかわりたいと感じている方にはあまりおすすめできません。
管理職を目指す
看護部長や看護師長、看護主任など看護師を管理する立場になることで、収入が上がるだけでなく、夜勤などの身体的負担を減らすことが可能です。
一方で、管理職になると以下のような負担が増えます。
- クレーム対応
- スタッフのメンタルケア
- シフト管理
- 新人の教育・指導
- 経営と現場の橋渡し
管理職を目指す場合は身体的負担が減る反面、メンタル面での負担が増える点を踏まえた上で目指すようにしましょう。
夜勤に多く入る
夜勤に入る回数を増やすことで、最大で年間約60万円の収入アップが可能です。
看護師から集めたデータによると、日勤のみ看護師の平均年収は約424万円、夜勤のある看護師の平均年収は約483万円との結果も出ています。
そのため、現在の勤務状況によっては最大で月5万円、年間で見ると約60万円の収入アップが見込めるでしょう。
ただし、夜勤は身体や精神に悪影響を及ぼすとのデータもあります。
たとえ収入が上がったとしても、健康を害してしまっては意味がありませんので、夜勤に多く入るとしても無理のない範囲で増やすようにしましょう。
関連記事:夜勤で寿命が縮むって本当?生じる健康リスクや改善ポイントを解説
副業をする
できるだけ早く収入を増やしたいという方には、副業も検討してください。
副業をする場合は、経験やスキルを活かせる以下の仕事がおすすめです。
- 他の病院でのアルバイト
- デイサービス
- 福祉関係
- Webライター
ただし、病院によっては副業が禁止されている場合もあります。
副業を始める前は、病院に確認してから行うようにしましょう。
より給料の高い病院へ転職する
一定以上の看護師経験がある方は、他の病院へ転職することで給料を上げられる可能性があります。
ベースとなる給料は病院によって異なるため、よりベース給与が高い病院を見つけ転職できれば給料が上げられるでしょう。
また、自身が持つスキルや経験をうまくアピールできれば、想定以上に給料が上がる可能性もあります。
ただし、給料面だけで転職先を決めてしまうのは危険なため、Webや実際に働いている方などから、労働環境や雰囲気を確認して転職するのがおすすめです。
看護師以外の働き方もある
看護師という働き方に不安を感じている方は、他職種への転職も検討してください。
看護師はやりがいがあり、給料も平均以上にもらえる良い仕事です。
しかし、患者の命を預かる関係上、身体的・精神的に大きな負担のかかる仕事でもあります。
これからのライフワークバランスを考慮し、看護師という働き方に不安や負担を感じる場合は、新たな仕事を探すのも一つの方法です。
まとめ:転職も視野に入れ給料アップを目指そう
看護師の給料は、他職種と比べても低い金額ではありません。
しかし、業務内容がハード、残業代が正しくもらえていない、などの理由により、給料が低いと感じている方も少なくないでしょう。
看護師が給料を上げる方法には「管理職を目指す」「夜勤に多く入る」などいくつかありますが、いずれも身体や精神に負担のかかる方法でもあります。
そのため、看護師以外の働き方を探すのも一つの方法です。